広島県尾道市におけるTEA FACTORY GENによる日本茶屋の計画。
尾道の中でもとりわけ風光明媚な山手地区は、斜面に沿って家並みが連なり、瀬戸内海の穏やかな水面と向かい合うように広がる、風景と暮らしが一体となった場所である。かつてこの一帯は「茶園(さえん)」と呼ばれ、お茶を愉しむための簡素で美しい建築が点在していた地域でもあり、尾道の港の繁栄を背景に、交易に携わる商人たちが庭園に茶室を設け、文化的な交流の場としても親しまれていた。そのような土地の記憶を今に引き継ぎ、日本各地の茶やその文化を共有できる場をこの地に計画した。茶を通じて人々が集い、語らい、時を味わうという営みが、瀬戸内の風景とともに静かに立ち上がる姿を描いている。
– 拝見室
お茶の葉を審査するために設けられた、拝見窓のある部屋。拝見窓とは、北側からのやわらかな自然光を取り込むための天窓付きの出窓であり、お茶の葉の色や質感を確認するために使われる。出窓内部を黒く塗り込むことで光の乱反射を抑え、お茶本来の色味を的確に見極めることができる。店舗でて今日されるお茶は、茶師であるオーナーがこの場で一葉ずつ丁寧に審査したものであり、その眼にかなったものだけが顧客に提供される。拝見窓を備えたこの部屋は、生産者でもあるオーナーにとって、茶葉と向き合う対話の場であり、日々の想像を支える静かな仕事場でもある。
– オリジナル什器(丸台, 盆)
茶立玄山手では、1階のカウンターで提供されたお茶をお盆に乗せ、自ら2階の客間へ運ぶセルフスタイルを採用している。客間に設けられた丸台にお盆を置くと、それがそのままちゃぶ台となり、一席が立ち上がる。
センの木で仕上げたお盆は福山の土井木工、丸台に巻かれた和紅茶染めのロープは染色作家wuyによる協力を得てが制作した。2階の客間は尾道水道を望む、風通しのよい静かな空間である。窓外の風景とゆるやかに対話しながら、自らの居場所を探し、席をしつらえてもらいたいという想いから、丸台は極力軽量に仕上げ、女性や子どもでも持ち運びしやすい構造とした。自ら場所を選び、茶を味わうという行為を通じて、ここでの体験が景色とともに記憶に残るものとなればと考えている。
– オリジナル照明
ぼんやりと沈む夕日のあかりや、お茶から立ちのぼる湯気の美しさ――日が落ちてから立ち現れる静かな情景を、ゆっくりと愉しんでもらうために、暗がりと共存しながら、小さく周囲を照らす壁付け照明を制作した。日没後には、スタッフがろうそくに火を灯すように、客間にそっとあかりを添えていく。
– 客室壁面・カウンターの左官素材
客室の壁面には、パルプや木粉などの繊維を主材とした塗壁を採用している。
茶立玄が建つ山手地区は急斜面に位置し、車両の通行が難しいため、資材の搬入出はすべて人力によって行われた。軽量で柔らかな繊維壁の材料は、こうした荷揚げの負担軽減や施工コストの抑制にも貢献している。また、繊維壁やカウンターの漆喰には、TEA STAND GENにて製茶・粉砕した茶葉の粉を着色材として練り込んだ。茶葉の粉末は粉砕時間によって粒子の大きさが変化し、それにより色の濃淡を調整することができる。壁面には、なめらかな色合いと色づきの深みを意図して48時間粉砕したものを、手に触れる機会の多いカウンターには、茶葉の粒感をあえて残すため24時間粉砕したものを用いている。使用した茶葉は、1階がほうじ茶と煎茶のブレンド、2階は煎茶、カウンターにはほうじ茶を使用している。
設計:プフ設計
施工:ユーカリ工務店、元山工務店、宮の工房ほか
内装・什器:赤装、土井木工、wuy
写真:岡本雄大、鈴木研一、小澤彩聖、石原愛美